理事長挨拶

一般社団法人 福岡青年会議所
2019年度理事長所信


理事長 岩木 勇人

 人間は変化を嫌う生き物です。変化することへの不安や恐怖を抱いたことは、誰しもが数多く経験したことでしょう。慣れない環境への不安感、何かを決断するときの恐怖心、しかし変化こそ新たな価値をつなぐ「きざし」、成長の糧であり、革新の機会です。そんな不安や恐怖を抱く時、この『青春』という詩をいつも思い起こします。
「青春とは人生の()る期間を言うのではなく心の様相を言うのだ。優れた創造力、(たくま)しき意志、炎ゆる情熱、怯懦(きょうだ)(しりぞ)ける勇猛心、安易を振り捨てる冒険心、こう言う様相を青春と言うのだ。」

サミュエル・ウルマン『青春』の一節より

若き心こそ唯一無二の武器

JCの最大の武器は「若さ」です。20歳から40歳までの期間にしか活動できない有限性、未熟さゆえに多様な価値観をもつ集団は、我々の存在価値そのものです。青年という言葉を辞書で引くと「青春期にある若い男女」とあります。さて、青春とは何でしょうか。前述の詩の一節の通り、青春とは心の若さです。溢れ出る情熱、何事にも恐れず立ち向かう挑戦心、未知なるものへの好奇心、そんな若き心を持ち続けているでしょうか。Keep Young Mind、我々はそのことを常に自分に問いかけなければなりません。

避けては通れない転換点

 2019年4月30日に「平成」という時代は終わり、5月1日から新たな歴史が始まります。福岡JCも2018年に創立65周年という節目の年を迎えました。世の中は少子高齢化や地方の人口減少などが叫ばれるなか、福岡市は2016年には人口155万人を突破し、全国でも5番目の都市となり、2035年まで人口増加が予測されています。しかし、その結果とは裏腹に福岡JCの会員数はこの10年間、ほとんど変動がありません。また、これまで入会から卒業までの在籍期間5年以下の者の割合は通年40%前後であったものが、昨年度より50%を超え、新入会者の半数以上の在籍期間が5年以下という現状です。卒業者数も2018年度48名、2019年度34名、2020年度48名と計130名がこの年間で卒業されることを考えると、対内的には会員数の減少というリスクから目を背けることはできません。
 一方、非営利での社会貢献活動や慈善活動を行う市民団体であるNPOの数は1998年の法整備より増え続け、福岡市の認証団体だけでも2007年度の373団体から2017年度には833団体と、この10年間で約2.2倍増加しています。また、2010年11月に36歳という若さで当選した高島宗一郎福岡市長は福岡をアジアのリーダー都市へというビジョンのもと、「国家戦略特区認定」、「福岡クリエイティブキャンプ」、「福岡市スタートアップカフェ・Fukuoka Growth Next始動」、「天神ビッグバンの推進」、「一人一花運動の展開」など従来の行政の枠を超えた先進的な政策を展開しています。さらにはSNSの発達で個人が簡単に仲間を集められる時代であり、クラウドファンディングの技術により個人間での資金調達も可能です。これらのことを考えても、福岡JCという組織の相対的影響力の低下は真摯に受け止めなければなりません。
 拡大運動においては量・質・在籍期間という、いわば二律も三律も背反する課題に対し、新しい発想と持続的、戦略的な思考でどう取り組むのか。加えてJC運動においてもSNSやクラウドファンディングの活用はもとより、IoT、AI、シェアリングエコノミー、FinTechなどの新たな技術の活用方法の模索、産・学・官との緊密な関係構築、特定活動団体との連携など、これまでの領域を超えた手法を考えなければなりません。まさに我々は避けて通ることのできない転換点を迎えています。
 福岡JCの目指すゴールが「明るい豊かな社会の実現」であり、短期的な基本方針が「理事長所信」であるならば、時代に即した存在意義、未来の進むべき道標となる中長期的ビジョンを我々自身で確立し、新たなスキームを再構築する必要があるのではないでしょうか。

革新してこその伝統

 伝統とは継承と革新の歴史です。継承とは単に前例を踏襲することではありません。その意味を知り、心を知り、本質を考え抜くことで初めてDNAに刻まれるのです。創立以来脈々と引き継がれている「創始の精神」、その継承が絶え間ないメンバーの新陳代謝のなかで薄れてしまってはいないだろうか。その意味さえ知らずに、伝統という名の隠れ蓑のもと、惰性に流され「How?(手法)」ばかりにとらわれて活動していることはないだろうか。65年という歴史のジレンマかもしれません。しかし時代の転換点である今こそ、物事の源流を辿り「Why?(目的・理由)」という素朴な疑問に正面から向き合うことが大切ではないでしょうか。
 例えば、事業計画の骨格である議案書も、意思決定のスピードや共感を得るコミュニケーションが重要視される時代に合わせて書式や上程期間、上程方法などを再構築したり、新入会者同期会事業においても、JC運動の根幹である「青年らしい想い」を共にし、JC事業の本質を学ぶとともに、同期の友情と結束を深めるという目的を継承しつつ、入会一周年のお祝いという手法にとらわれず、青年らしい自由な発想で事業を行えるように革新したりしていく必要があるのかもしれません。
 革新には大きな変化がともないます。その大きな変化により領域を超えた接触がおき、これまでにない多様性を生み出します。肝心なのはその多様性を最大限に活かすことです。未知なるもの同士の融合こそ、伝統をつなぐ強力な接着剤になるはずです。変化を恐れず、ともに楽しみ成長を遂げましょう。

多様な価値観を受け入れる街、福岡

 福岡が位置する北部九州という地域は、有史以来、稲作、鉄器、鏡などに代表される「新たな技術」伝来の窓口であり、鴻臚館にも象徴される海外の「人」との交流拠点でもありました。いわば常に多様な価値観を受け入れてきた地域なのです。現代においても、九州全域から15~29歳の若年層の人口流入で全国トップクラスの若者率を誇り、海外からの移住者も約36,000人と毎年増加傾向にあります。 また、国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」の指定を受け、開業率や国際会議開催件数が全国第一位と、新たな商品・技術・サービスが生まれ育っています。
 とりわけ学生のまちともいうべき福岡市内107校、のべ11万人にのぼる大学・専門学校の学生、約15,000名の海外留学生は、若者や外国人の人口流入における大きな受け入れ先となっています。また、福岡市内で創業を志す外国人にとっての「スタートアップビザ」や、革新的な事業を行う法人に対しての「スタートアップ法人減税」など、福岡市は様々な分野における才能の発掘を支援する制度が整ったまちでもあります。
 そのような恵まれた環境だからこそ、青年代表である我々が、これからの未来ある若者や移住者の活躍する場を創出していくとともに、彼らと手を取り合い多様な価値観に触れ合うことで、創造力豊かな人材の育成を目指していきましょう。私たちのまちは、私たちの手で。

大胆にFUKUOKAの未来を描く

 青年の特権は夢を抱き未来を創造することにあります。その未熟さ故の純粋性がJCの発信力の根源です。青年らしく柔軟な発想と多面的に考えることができる創造力こそ、その原動力に他なりません。夢を抱き未来を描くのも「人」ならば、それを実現するのも「人」です。我々も時には“スマホ”を鞄にしまい、ともに夢や未来を考える時間を創ろうではありませんか。
 夢に根拠なんていりません。誰かの声に流されることなく、自らの心の声にこそ耳を傾けるべきです。例えば昭和20年代に、手塚治虫氏がその代表的著書『鉄腕アトム』のなかで高層ビルが立ち並び高速道路が張り巡らされた未来都市を描いたように。例えば昭和43年公開の映画『2001年宇宙の旅』で未来の理想のデバイスとしてタブレット型端末や音声認識技術が描かれていたように。福岡JCの長い歴史の中で実現されてきた先輩方の偉業も、すべては一人の大胆な発想から動き出しているのです。
 「できること」から考えるのは堅実なやり方かもしれませんが、大きな発展を生みだせません。「やりたいこと」だけでも多くの共感を得ることができないでしょう。我々が「なすべきこと」は何かを考え、それがたとえ苦手なこと、難しいことであっても、結果がどうであれ挑戦的に取り組むことこそ、JCの使命ではないでしょうか。

外部とのつながり、内なる結束

 夢を現実に落とし込み、JC運動として実践していくには、これまで以上に外部との接点を強化する必要があります。いや、我々自身がさらに必要とされる存在にならなければなりません。2019年は6月にG20福岡財務大臣・中央銀行総裁会議、9月にはラグビーワールドカップ2019日本大会と世界的イベントが福岡の地で開催されます。2010年の『アジア交流首都宣言』での提言のように、福岡の街は年々国際化を果たし、注目される都市としてもう一つ上の階段を登ろうとしています。そんな中で、我々が果たすべき役割は何かを考えるとき、外を向いた幅広い視野と、客観的に物事をとらえるための高い視点が求められます。
 産・学・官・各種団体、そしてこの街に暮らす人々に対し、我々は単年度制で色のないフラットな組織であるからこそ、領域を超えた様々な連携が可能となり、大きな化学反応を示すことができるはずです。また、我々には1,500名を超える福岡JCを卒業された先輩方とのつながり、国内696LOM※約34,000名の志を同じくする仲間の存在、117の国と地域に広がる国際的なネットワークなど、かけがえのない財産を数多く有しています。既存の枠組みだけにとらわれることのない交流のありかたを、目的に応じて実践していくことが大切です。
 一方、足元の我々に目を移すならば、福岡JCの各事業のパフォーマンスを最大化するには、LOMが一つのチームとして機能することが必要です。キーワードは「緊張感(メリハリ)」と「思いやる心」だと考えます。「緊張感(メリハリ)」は真剣で誠実な雰囲気を作り出します。礼儀礼節、時間に対する考え方、会議に臨む姿勢など、利害関係のない同世代の青年の集まりだからこそ、何よりも個々人がこの「緊張感(メリハリ)」を大事にしなければなりません。そして、それは人が人を「思いやる心」にもつながります。言い換えるならばお互いを尊重し合う気持ちです。たとえ年齢、役職、所属委員会が違えども、同じ志を持つ仲間です。他人事としてとらえるのではなく、何事も自分事としてとらえることのできる心こそ「思いやる心」だと考えます。「緊張感(メリハリ)」と「思いやる心」をもって内なる結束をはかりましょう。

※2018年10月1日現在

リーダーシップとフォロワーシップ

 青年会議所の目的の一つは指導力の啓発、いわゆるリーダーの育成です。また、福岡JCの主役は委員長であるべきです。なぜなら、メンバーから理事選挙を通じて直接選ばれた存在であることに加え、委員会という組織を束ね、目指すべき方向を自ら切り拓くリーダーシップを発揮できる機会を存分に有しているからです。しかしながら委員長には組織長としてのリーダー的役割だけでなく、マネージャー的役割も求められます。
 リーダーとは、多様性のある集団を同じベクトルに振り向かせ、組織の進むべき道を先頭に立って導く者であり、マネージャーとは、組織に属する一人ひとりの能力を見極め、役割分担や成長の機会を創出する者です。昨今、委員長の姿にはマネージャーとしての役割ばかりが意識されているように思えます。ダイヤモンドはダイヤモンドでしか磨かれないように、リーダーはリーダーによって磨かれます。我々と同世代の若きリーダーは、JC に限らずそれぞれの分野で全国津々浦々、数多く存在します。今一度、リーダーシップとは何か、相互の成長の機会として考えてみる必要があるのではないでしょうか。
 あわせて、リーダーをリーダーたらしめるには、そこに共感し集うフォロワーの存在が重要であり、フォロワーシップが発揮されることが不可欠です。フォロワーシップとは、リーダーを支える側の立場であるメンバーとして、単に受け身ではなく「主体的」「能動的」に組織での役割を考え、率先して行動を起こす力です。我々JAYCEE は、入会歴や役職が違えども、同じ会費を払って活動する平等な立場であるはずです。普段、会社では代表という立場の人でもJCでは一メンバーであり、改めて学べる機会でもあるのです。LOM の主役である委員長を支えるのは委員会メンバーです。リーダーシップとフォロワーシップの相乗効果にこそ、強い組織、強力なモチベーションをつくるヒントがあります。

JCで活動できる有難さ

 我々は、先輩方が汗を流し、想いをつなぎ築いてきた礎の上に立っています。何事にも変えがたい財産です。しかし、そこに甘んじてはいけません。なぜなら先輩方もそうであったように、果敢に挑戦し、驕らず謙虚に様々なことを吸収し続けてきたからこそ築かれた礎に他ならないからです。人それぞれ差はあれども修練、奉仕、友情の三信条のもと、我々は有難い経験をさせてもらえています。これは決してあたりまえのことではありません。だからこそ、自分のためだけに動くのではなく、世のため人のために活動し、その活動で得た無形の財産を会社や家庭に還元することを忘れてはいけません。
 JC は限られた期間でしか味わえない、有難い機会です。せっかく同じ時間を共にする仲間であるならば、何事にも恐れず思いっきり挑戦し、伝統をつなぐ進化、未来を据えた革新、志は高く、腰は低く。この街、この組織の「きざし」を共に生み出そうではありませんか。